インターネット掲示板と著作権
〜ホテルジャンキーズクラブ掲示板で起きたこと〜
 

各位

このページは、「『世界極上ホテル術』著作権侵害問題債権者団」からの依頼により、「代表者の手によるリリース文」と、ウォッチャーの皆様のために、「債権者団が作成した、4/15判決を得てのマスコミ向けプレスリリース(pdfファイル)」を掲載いたします。


[債権者団より、プレスリリースに関する訂正]

「マスコミ向けプレスリリース」作成時点(2002/04/15)以降、リリース中の掲載内容から状況が変わった点がございます。
【1】「本案訴訟中における村瀬氏の主張」の項、
「そして今なお、同誌やホームページ上で、該当書籍の宣伝を 続けています。」のくだりを削除いたします。
【2】参考資料として「ホテルジャンキーズ掲示板で起きたこと」URLが掲載されていますが、旧アドレスが掲載されています。
【3】各ページヘッダー部分に、「2002/5/26」の日付が入っておりますが、これはpdfファイルを作成した日付です。

 森拓之事務所と村瀬千文氏が地裁の判決を不服として控訴しました。私たち原告としては東京地裁の判決に納得、満足していましたのでたいへん残念です。しかし、控訴されたとはいえ、「ネット上の掲示板の匿名の書き込みも、思想又は感情を創作的に表現したものであれば著作権がある」という司法の判断が示されたことは大きな意義があると思っております。
 この問題に関心を持ち続けて下さった方々、メールや掲示板で励ましてくださった方々にあらためてお礼を申し上げます。裁判の途中では、審理の内容や争点など、十分に明らかにできず申し訳ありませんでした。今後も高裁での審理が続きますが、地裁の判決で一区切りつきましたので、
  【何が問題だったのか・私たちが望んでいたこと】
  【裁判を起こそうと思った理由】
  【村瀬氏と森事務所の主張とそれに対する私たちの反論】
  【補足〜和解のことなど】
  【同じようなケースに巻き込まれることがあったら】
をまとめてみました。ネット上の著作権や掲示板運営について考える際の一助としていただければ幸いです。

【何が問題だったのか・私たちが望んでいたこと】
 「著作権侵害」というととたんに仰々しくなりますが、そもそもは「自分の書き込みが黙って本に掲載されるなんておかしい、納得いかない」という素朴な気持ちがきっかけでした。訴訟に加わるにいたった理由は原告11人それぞれに違った事情や思いがあって一概には言えないのですが、どんな点が問題だと感じたのか、主なものを箇条書きで挙げてみます。
■私たちが掲示板に書き込みをしたのは、同じ趣味を持つ人と情報交換や交流を楽しむためで、本にしてもらうためではなかった。
■間違った情報、本の出版の時点ではすでに古くなってしまった情報もそのまま掲載されてしまった。
■ネット上の掲示板に書き込むときと活字になる文章を書くときでは、文章の完成度や情報の正確さなど気の使い方がまったく違うのに、勝手に本に掲載されてしまった。
■日付を外されたり文章を勝手に変えられたりして、書き込みの意図が伝わらなくなっている。
■本の出版自体もさることながら、その後の村瀬氏と森事務所の対応に対して疑問、不満、失望を感じた。
 私個人のことを申しますと、『世界極上ホテル術』に転載された投稿は、旅行前のはしゃいだ気分で書いたため筆がすべっているというか、自分で読み返しても恥ずかしくなるような文章でした。過去ログに沈んでいる分にはよかったのですが、活字になってみると不用意に本名の一部をハンドルネームにしていたり、情報を得るために休暇のスケジュールや家族のこと、好きでよく行っているホテル等を晒しているのも気になりました。
 せめて再版の際に、ハンドルネームを変更し、掲載されると不都合がある部分を削除してもらえないかと思って村瀬氏にメールや手紙を送りましたが、返事は「個別の対応はできない」というものでした。
 本の出版直後に、私たち原告が村瀬氏に言いたかったこと、対応して欲しかったことをまとめると以下のようなことになるかと思います。
■掲示板の利用規約に「投稿は転載されることがある」と明示しておいてほしかった。
■本の出版が決まった時点で掲示板で知らせてほしかった。そうすれば、使ってほしくない投稿や、間違った情報をあらかじめ指摘できた。
■本に掲載されてしまった投稿のうち、問題のある箇所や掲載を望まないものについては訂正、削除してほしい。
■掲示板に書き込まれている疑問や抗議に応えてほしい。

【裁判を起こそうと思った理由】
 私自身も著作権と関係のある仕事をしているため、何の説明もなく本が出版されてしまったことと、その後の村瀬氏の対応には疑問を感じずにはいられませんでした。
 掲示板での批判や抗議が速攻で削除されるようになった時点で「このままうやむやになるのを黙って見ているか」「法的手段に訴えるか」のどちらかしかないと思うようになりましたが、私の気持ちが訴訟に傾く決定的なきっかけとなったのは、『世界極上ホテル術』第2刷が発行されたことと、雑誌「ホテル・ジャンキーズ」26号に掲載された村瀬氏の「見えない相手と」という文章を読んだことからです。この6ページにもおよぶ文章から私が読みとった村瀬氏の主張は、
■自分に悪意を持っている会員が掲示板で攻撃をしている。
■自分がいかに忙しいか。
■(弁護士に相談して書き込みには著作権があると言われたが)著作権があるとは納得できない。謝って済ませるつもりはない。
というものでした。私自身は本の出版後は掲示板への書き込みを控えていましたが、そこでの抗議や批判の大半は至極もっともなものに思えましたし、自分の気持ちを代弁してもらっているような気持ちで見ていました。そもそも村瀬氏が会員から攻撃されているとか忙しいといったことは、著作権を侵害したことや抗議を黙殺することの言い訳にはならないはずです。
 また「見えない相手」と言いますが、私も含めた原告のうちで村瀬氏に連絡した者は(この時点では個別に動いていましたが)メールや手紙、電話ではきちんと名乗っていました。
私にとっては「個別に対応するつもりはない」の一点張りで済ませようとする村瀬氏のほうがよっぽど「見えない相手」でした。
 黙って見過ごすのも悔しいが、法的手段にかかるお金や労力を考えると正直それもバカバカしい、しかし後者のほうがまだしも気分はすっきりするのではないか。これからもホテルを楽しもうとすれば雑誌等で嫌でも村瀬氏の名前を目にするだろう、インターネットを利用していればまた同様の問題に出くわすこともあるだろう、そのたびに不愉快な思いをしないためにも出来ることをやってみようと思うようになりました。何より、法的手段を取りたいという呼びかけに応えてくださった方が10人近くにのぼったことが大きな後押しになって、仮処分申請、本案訴訟に踏み出すことができました。

【村瀬氏と森事務所の主張とそれに対する原告の反論】
 今回の問題で、村瀬氏や森拓之事務所がみずからの考えを公に説明したことは数えるほどしかなく、そのことに不満をお持ちの方も多いのではないかと思います。争点にならなかったものの裁判の過程で明らかになった先方の主張と、それに対する私たちの反論をまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張1)
匿名で投稿したということは、著作権および自分の投稿に対する責任を放棄している。
(私たちの反論)
・そもそも著作権には著作物を実名もしくは匿名で発表する権利が含まれており、「匿名だから著作権を放棄している」などということはあり得ないはずです。
・ハンドルネームもペンネームと同様、個人の人格を表しており、いわゆる匿名とは異なると私たちは考えます。ハンドルネームであっても「この人はこの地域のホテルに詳しい」「この人はいつも質問に丁寧に答えてくれる」といった投稿者の個性はコミュニケーションを通じて自ずと明らかになります。
・誰が見ているかわからないネット上では、本名も住所や電話番号などと同様にうかつに明らかにするべきではない個人情報のひとつとされることが多く、掲示板で本名を名乗らないからといって無責任であるとは言えません。
・私たちはハンドルネームで書き込んだものであっても、自分の投稿の内容について責任を感じています。『世界極上ホテル術』出版後、複数の人が自分の投稿に含まれる間違いや古くなってしまった情報について訂正と削除を求めました。しかし、村瀬氏と森事務所は何の対応もせず、第2刷を発行してしまったのです。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張2)
掲示板に投稿された情報はひろく不特定の他人に自由に無料で閲覧・利用され、かつ他に自由に流通されることをもともと予定されていると考えるべきである。
(私たちの反論)
・私たち原告は同じ趣味を持つ人と交流し、情報交換をするために掲示板に投稿していました。ですから、ウェブ上の投稿を不特定の他人が自由に無料で閲覧・利用することは予定の範囲内であり、むしろ喜びとするところでした。しかし、それを被告らが出版し、金銭的利益を得ようとしたことはまったくの予想外で、不本意なことでした。
・ウェブ上の投稿は物理的には世界中からアクセス可能ですが、実際問題として「ホテル・ジャンキーズ」の掲示板を利用する人は、かなりのホテル愛好家に限られると思われます。リニューアル後の掲示板には投稿の読み出し数を示すカウンタが付きましたが、一般的な投稿の場合、閲覧者は500人以下です。発行部数1万部以上の書籍に収録されるのとは読者層も影響力もまったく異なります。
・ウェブ上の投稿は比較的簡単にあとから言葉や情報を補ったり、異なる意見に反論したりすることが可能ですが、活字になるとそうしたことは難しくなります。そのため一般的に、ウェブ上の掲示板への書き込みが気軽におこなわれるのに対して、活字になる文章を書くときは表現や情報の正確さにかなり注意を払うと思います。こういう点からも掲示板に投稿された文章をそのまま活字にすることは問題があると私たちは考えます。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張3)
原告の投稿に感情の表現があるとしても、「よかった」「おすすめです」といった平凡でありふれたものであり、著作物として法律の保護を与えるレベルのものではない。
(私たちの反論)
・どのホテルを推薦するか、どんな旅行を計画しているかというところからその人の思想や個性が表れているのであり、「よかった」「おすすめです」といった直接的な感情表現の部分だけを取り上げて「個性がない」「平凡」などと論評しても意味がありません。
・原告の投稿の多くは身銭を切ってそのホテルに泊まり感じたことがあるからこそ書ける内容です。同じことを村瀬さんが一人で書こうとしたら、どれほどのお金と時間、労力がかかるか考えてみてほしいと思います。
・そもそも『世界極上ホテル術』に掲載された村瀬さんの投稿と私たち原告の投稿の間に大きな質的な違いがあるとは思えません。私たちの書き込みが「平凡でありふれた表現だから著作権がない」というなら、村瀬さんの書き込みにも著作権はないということになりませんか?

(村瀬氏と森拓之事務所の主張4)
投稿者は自己の個々の投稿についていちいち著作権を主張することができないことを、当然、了解したうえで投稿していると考えるべきである。転載を容認する意見が掲示板の投稿やメールで寄せられており、こちらが投稿者一般の考え方を代表している。
(私たちの反論)
・『世界極上ホテル術』の出版後、多くの疑問・批判が掲示板に書き込まれました。中には面白半分に揶揄するような投稿もありましたが、ほとんどが真摯な意見の書き込みでした。抗議の投稿が削除・黙殺されて以降、多くの常連は投稿をやめています。また原告には、無断転載の当事者で諸事情により訴訟には加わらなかった方、ホテルジャンキーズクラブの会員・元会員の方から多くの共感、支援のメールが寄せられています。村瀬氏および森拓之事務所に対して批判的な意見のほうが投稿者一般の考え方であることは明白であると考えます。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張5)
本件出版物発行前に雑誌「ホテル・ジャンキーズ」にも掲示板の投稿を転載してきたが、従前に異議をとなえた者はいなかった。だから『世界極上ホテル術』の出版にも問題はないと考えた。
(私たちの反論)
・「従前に意義をとなえた者」はいました。原告のひとりは「ホテル・ジャンキーズ」に投稿を転載された後、村瀬氏にメールを出し、「投稿が転載されることがある」と掲示板に明示するよう求め、村瀬氏からは意見に対する感謝の返事が送られてきました。しかし実際には何の対応もなされないまま、この原告の投稿も『世界極上ホテル術』に転載されています。
・雑誌「ホテル・ジャンキーズ」はごく限られた書店でしか手に入りません。原告の多くは「ホテル・ジャンキーズ」を毎号、購読しているわけではなく、自分の発言が転載されたことを知る由もありませんでした。
・雑誌「ホテル・ジャンキーズ」と光文社文庫とでは販売部数、販売形態、読者層、影響力が全く違います。仮に雑誌への掲載を容認していたとしても、文庫本への無断転載を容認できるとは限りません。
・そもそも過去に悪いこと(無断掲載)をしてクレームがなかったから、これからもしてもいいというのは理由になっていないと思います。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張6)
投稿者に連絡を取る方法がなかった。また匿名の投稿者に対して、こちらから連絡を取るべきではないと考えた。
(私たちの反論)
・原告の中には投稿の際にみずからのメールアドレスを明示していた者が複数います。村瀬氏と森事務所がその気になれば、連絡を取ることは簡単にできたはずです。また、掲示板であらかじめ書籍を発行することを明らかにし、利用者に了解を求めることも可能でした。
・原告の中には、これまで雑誌「ホテル・ジャンキーズ」の誌面作りに協力した者もおり、村瀬氏と森拓之事務所に本名、連絡先とハンドルネームを関連づけて知られていた人もいます。
・村瀬氏および森拓之事務所は、しばしば掲示板で特定の投稿者を名指しして連絡をくれるよう求め、雑誌「ホテル・ジャンキーズ」の誌面作りに協力させていました。自分たちが情報を欲しいときには投稿者に連絡を取っておきながら、今回はそうするべきではないと考えたというのはどう考えても理屈に合いません。

(村瀬氏と森拓之事務所の主張7)
原告が本当に投稿者なのかどうか確認できない。
(私たちの反論)
・『世界極上ホテル術』の出版が問題になった後、村瀬氏は「掲載された人はプロバイダ、メールアドレス、パソコン機種を知らせれば、図書券500円を支払う」と呼びかけました。私たちは裁判の中で、プロバイダ等、村瀬氏が求めた情報はすべて明らかにしています。村瀬氏側がアクセス記録等で本人確認ができると考えたからこそこうした呼びかけをおこなったはずで、村瀬氏は原告=投稿者であることを確認できるはずです。
・原告のうち、「ホテルジャンキーズ・クラブ」の会員であった者、かつて雑誌「ホテル・ジャンキーズ」に協力を求められたりした者については村瀬氏は間違いなく原告=投稿者であると認識していたはずです。
・原告の中には本名の一部をハンドルネームとしていた者、メールアドレスを明示していた者がいます。ここからも原告=投稿者であることは確認できるはずです。
・投稿者ではない人間が偽って訴訟を起こすのは司法への重大な挑戦です。実際問題として当事者ではない者が、安くない弁護士費用、裁判費用を支払って訴訟を起こすとは考えられません。

【補足〜和解のことなど】
実は仮処分申請の段階で一度、「和解」(裁判の決着の仕方の一種で、いわゆる一般的な意味での「仲直り」とは違います)の話がまとまりかけたことがありました。光文社は著作権侵害の事実について争うことはせず、和解金の支払いとこれ以上、本を増刷しないことを申し出てきました。それには私たちも異存はなかったのですが、もうひとつ出された「秘密保持権」という条件のため、この和解を蹴らざるを得ませんでした。
「秘密保持権」というのは簡単に説明すると、和解してお金を支払う代わりに和解したことを秘密にしておいてほしい、というものです。ネット上で議論、応援してくださった方たちにご報告もできないのは納得がいきませんでしたし、結果を明らかにしなければ同様の問題がまた起こり得る、それでは法的手段を取った意味が半減すると思いました。この頃、ある雑誌に村瀬氏を「掲示板荒らしの被害者」として扱った、私たちから見るとたいへん一方的な記事が掲載されたこともあって、公の場で反論できなくなるような和解条件はどうしてものむことができませんでした。
また、このとき、村瀬氏と森拓之事務所に対しては、ホームページと雑誌への謝罪文掲載を求め、文案もこちらで用意しました。しかし、審尋に出席していた村瀬氏は謝罪文掲載を拒否し、文案を見ようとはしませんでした。
本案訴訟の際も裁判官から「和解のための話し合いをしては?」という呼びかけがあり、私たちはこれだけは譲れない条件というのを考えていました。しかし、光文社も、森事務所および村瀬氏も「判決をいただきたい」ということで結局、話し合いはなされませんでした。結果としては判決を出してもらうのがいちばんすっきりとした決着の仕方だったと思います。
なお、『世界極上ホテル術』は第2刷まで店頭にならんだのは皆さんご存じのとおりです。3刷の計画もすでに出ていて、それがストップしたのは仮処分申請がおこなわれたからのようです。それだけでも法的手段に踏み切った甲斐があると思います。

【同じようなケースに巻き込まれることがあったら】
 まず著作権を侵害された側の方へ。法的手段を取ろうとするとき、ネックになるのは知的財産権に詳しい弁護士を探すことと裁判費用だろうと思います。今回も費用については、地裁の判決どおりの賠償金が支払われたとして、数十万円単位の赤字が出ることは確実です(それも含めて私は今回の結果に満足していますが)。まずは今回の判決を持ち出して、出版社や著者、サイト運営者と交渉されることが現実的な方法であろうと思います。前例となる判決が示されていれば、先方もそれなりの対応をせざるを得ないのではないでしょうか。その際も一人ではなく、同じ立場の人間が集まって交渉することが重要だと思います。私でお役に立てることがあればどうぞいつでもご連絡下さい。
 そして著作権を侵害してしまった側の方へ。『世界極上ホテル術』のケースでは出版後に出版社および村瀬氏がしかるべき対応をしてくれれば、私たちは裁判などという手段に訴える必要はありませんでした。著作権に注意を払うことはもちろんですが、「あらかじめ掲示板の利用者に告知して理解を求める」「掲示板での抗議や疑問の声には真摯に耳を傾ける」といった法律以前のネット上のマナーをぜひ大切にしていただければと思います。

「『世界極上ホテル術』著作権侵害問題債権者団」代表

 


リリース内容へのお問い合わせは、「『世界極上ホテル術』著作権侵害問題債権者団」へお願いいたします。

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